米国の暗号資産・ステーブルコイン規制は、2022年の市場崩壊を契機に執行が強化され、2024年の政権交代を経て、2025年のGENIUS法成立で制度化の段階に入った。ここでは経緯のポイントを整理する(各出来事の日付・出典は時系列、事象どうしのつながりは因果関係グラフを参照)。
なぜ規制が動き出したか
2022年5月のTerra/UST崩壊(約4,300億ドルが消失)と、同年11月のFTX破綻は、暗号資産の投資家保護とステーブルコインの裏付けへの不信を一気に高めた。これを受けてSEC・CFTCは執行を強め、2023年にはコインベース、バイナンス、クラーケンなど主要企業を「未登録の証券・デリバティブ事業」として相次いで提訴した。バイデン政権は2022年3月の大統領令14067で省庁横断の検討を始めていたが、立法は進まず、規制の実態は「執行による規制(regulation by enforcement)」に偏っていた。
司法がSECの強硬姿勢に歯止め
2023年は裁判所がSECの拡大解釈を抑える判断を相次いで示した年だった。
- リップル訴訟 — 7月、連邦地裁はXRPの取引所を通じた販売は有価証券に当たらないと判断(一部勝訴)
- グレイスケール勝訴 — 8月、連邦控訴裁がSECによる現物ビットコインETFの却下を「恣意的」として無効化
- 現物ビットコインETF承認 — 2024年1月、SECは現物ビットコインETPの上場・取引を承認。5月には現物イーサリアムETFも承認された
司法判断とETF承認は、SECの「拒否ありき」の姿勢が通用しないことを示した。
政権交代による方針転換
2024年の大統領選で暗号資産業界はスーパーPAC(Fairshake)を通じて多額を投じ、政策形成への影響力を強めた。トランプ氏の当選後、流れは一変する。
- ゲンスラーSEC委員長が退任を表明し、暗号資産推進派のポール・アトキンス氏が後任に
- SECは暗号資産タスクフォース(ヘスター・パース委員主導)を設置
- コインベース、クラーケン、コンセンシスなど主要訴訟を相次いで取り下げ
- 銀行の暗号資産カストディを妨げていた会計指針SAB121を撤回(SAB122)
- 2025年3月、戦略的ビットコイン準備金の創設を命じる大統領令に署名
「執行による規制」から「ルールづくりによる規制」へと軸足が移った。
ステーブルコインの制度化(GENIUS法)
2025年、ステーブルコインを正面から規律する立法が実現した。
- GENIUS法 — 6月に上院(68対30)、7月に下院(308対122)を超党派で可決し、7月18日にトランプ大統領が署名して成立。米連邦初の包括的なステーブルコイン法
- 決済用ステーブルコインの発行体に、準備資産の裏付け・償還・開示などの要件を課す枠組み
- 成立後はOCC・財務省などによる実施規則の整備が進み、銀行や決済事業者の参入が本格化
並行して、暗号資産の証券・コモディティの線引きを定める市場構造法案「CLARITY法」も下院を通過した。
論点と今後
規制の方向性は「明確化と制度化」で一致しつつあるが、論点は残る。市場構造法(証券かコモディティかの管轄整理)の上院での行方、ステーブルコインの裏付け資産・利回り提供の扱い、AML/CFT・制裁順守の実装、戦略的ビットコイン準備金の運用などだ。米国の制度設計は規模が大きいだけに、各国の規制やステーブルコイン市場全体に与える影響も大きい。